浅い眠り、枕元の点けっぱなしのテレビ

 夢の中で聞いた話を、テレビの中でニュースキャスターが喋っている。また誰かが死んだらしい。夢の中では、僕の昔の恋人が通り魔に刺されたって話だった。携帯電話の画面は、少し歪んでいた。涙が貼りついてる。指で画面を拭うけど、ゆがみはとれなくて、自分の目を擦ったら歪みが消えた。メールも着信もない携帯電話。テーブルに置いて、布団に仰向けになる。ああ、夢の中も今も同じだなあ。そう思って、テレビを消す。窓は凍っていて、隙間風が鼻先を冷やす。炬燵は赤々と温かそうで、でもちっとも温めてくれない。蛍光灯が一つ切れそうで、自分が瞬きをしたのかと錯覚する。連続的に瞬きをしてみる。睫毛に絡みついた涙の残りの、自分に似た女々しさに嫌になる。昨日寝た女の子は名前がなくなった。僕が抱いた女の子は名前が無くなる。ゴメン、と独り言のように呟く。その呟きは空中投げ出されて、隙間風に弄られて飲みかけのジンが入ったグラスに落ちた。ライムのきれいなグリーンの色が一瞬濁る。なんだか、そのジンライムの入ったグラスは自分のような気がする。見つめていると、グラスは歪み始めて僕は布団にうつ伏せになる。窓を凍らせた冷気と同質の冷たさが顔を覆って気持ちがいい。僕は何も考えず嗚咽する。声を上げて泣く。部屋中全てが冷え切っているから、嗚咽は吸収されずに部屋の中を徘徊する。僕を独りにしない。でも、「オマエハヒトリダ」と言いながら徘徊する。ああ、馬鹿らしい。起き上がってジンライムを一気に流し込む。水っぽいジンライムは不味かった。